週2・授業料は月1000円。県内初の公営塾、小菅村の「すたすたスクール」を探る。
2024/08/20 ライター:青栁やすは
小菅村に新たに公営塾が開設されました。
新聞の見出しには「週2回で授業料は月1000円 県内初の公営の学習塾 小菅村が開設」とキャッチ―なワードが並びました。
そんな小菅村の公営塾「すたすたスクール」の内容を紹介します。
結論としては、内容は昨年まで週1回で行っていた「放課後子ども教室」を踏襲。
塾という位置づけですが、勉強を教えてもらう場というより、自分で勉強を進める力をつけることを目的とし、大人はそのサポートを行います。
学力の向上とともに、子どもの居場所づくりという面もあります。
そんな小さな村で始まった公営塾についてせまります。
※本記事の内容は2024年8月時点のものです。
すたすたスクールとは
すたすたスクールは2024年5月8日から始まりました。
この日はオープニングセレモニーが開かれ、県内初の公営塾の開設ということでマスコミの方も取材に訪れました。
小菅村教育委員会の藤木教育長は、「家庭・学校に続く”子どもの学習機会の提供”場所の創出を目指して設立。
幅広い世界に視野を向けるような学習を展開していけたら。」と挨拶されました。
すたすたスクールの名前の由来は、すたすたと自立して歩いていく子どもたちをイメージ。
スムーズに進むという意味の「すたすた」には「スタディ」もかけられ、すたすたと勉強を進めながら自立して進んでいける場となるよう、想いが込められています。
”塾”という位置づけのすたすたスクールですが、学校や塾のように一方的に教えるのではなく、学習アドバイザー(学習をサポートする大人)は寄り添い型。
自分で主体的に勉強を進める力をつけることを一番の目的とし、大人はそのサポートを行います。
また小菅村は人口620人(2024年8月時点)と小さな地域という特性を活かし、地域の様々な人が子どもと関わり、つながりを作りながら学習を進めていく場を作ることやICT活用も企図しています。
すたすたスクールの開催概要
すたすたスクールの概要は以下の通りです。
対象 | 小学1年生から中学3年生 (小学生・中学生と時間を分けて開催) |
開催日 | 月曜日・水曜日の放課後 |
時間 | 小学生は1時間10分 中学生は1時間30分 |
開催場所 | 小菅村中央公民館 |
参加費 | 月額1,000円 |
その他 | ・休憩時間におやつあり ・終了後、小学生の希望者は自宅までスクールバスでの送迎あり |
なぜ小菅村に公営塾が?
小菅村は山間へき地に位置し、小学校20名、中学校15名と超小規模校。
通常 子どもの人数が少ない場合、複数の学年を1つのクラスにする複式学級になりますが、小菅村は足りない教員を村が負担し、1学年を1人の教員が担当し、学年ごとに1つの学級を編成しています。
1クラス2~7人に担任の先生が1人と、先生に対して子どもの数が少ないので、先生の目が行き届き、先生のサポートが充実しています。
(2024年8月時点)
小菅村には中学校までしかないので、村外の高校に進学すると、中規模や大規模校となるために学校環境は激変。
それに加えて学習量の増加、交友関係の拡大、先生のサポート体制の減少と、ただでさえ大変な「高1ギャップ」は、小菅村の子にとっても大きな課題となっています。
また村内に民間の学習塾がなく、最寄りの塾まで車で片道40分ほどかかるので、時間も経済的にも負担が大きいです。
小菅村は「子どもは村の宝」をキャッチコピーに、子どもの教育サポートに注力しています。
地域の次代を担う若者を取り巻く課題を解決すべく、小菅村教育委員会は数年前から公営塾の設置を検討していました。
さまざまな検討の末、2007年より開催していた「放課後子ども教室」を踏襲し、公営塾「すたすたスクール」として2024年からスタートすることになりました。
すたすたスクールの内容を中学生編・小学生編と分けて、詳しくご紹介します。
すたすたスクール中学生編の詳細
1時間30分の中学生のスケジュールの内訳がこちら。
スケジュール | ||
勉強(40分) | 休憩(10分) | 勉強(40分) |
高1ギャップや受験を見据えて、自分で主体的に勉強を進める力をつけることを目的に学習指導・学習のサポートを行っています。
具体的には各自の宿題や教科ごとのワーク、すたすたスクールで準備した教材などの課題などから今日の目標を決め、40分間×2の学習時間に取り組みます。
課題は子どもの苦手科目や、定期テストに向けて優先順位を付けたりと、学習アドバイザーもサポートしながら考えます。
中学校・高校と進むとテスト範囲が広くなるので、学習計画を自分で考えられるようサポートをします。
子ども自身が学習する中で分からないことや難しい部分は、学習アドバイザーがサポートすることもあれば、講義形式で説明することもあります。
すたすたスクール小学生編の詳細
1時間10分の小学生のスケジュールの内訳がこちら。
学習の時間だけでない・学習の時間も教科学習だけに特化しないことが特徴となっています。
スケジュール | |||
月曜日 | 勉強(35分) | 休憩(10分) | フリータイム(25分) |
水曜日 | 勉強(35分) | 休憩(10分) | レクリエーション(25分) |
月末 | お楽しみ会(1時間10分) |
勉強の時間
まず学校の宿題に取りくみ、終わったらすたすたスクールで用意した脳トレプリントにチャレンジしてもらいます。
勉強時間は静かにというルール。
学習アドバイザーは気が乗らない子どもを励ましつつ、つまずいている子がいればサポートをします。
脳トレプリントをしている子がいれば、まる付けをして、解き方のヒントを伝えることもあります。
脳トレプリントは「仮説思考」や「空間把握」など、学校とはまた違った内容にチャレンジ。
低学年は点つなぎやめいろなど、机に向かう習慣づけや、鉛筆に慣れることを目的に、楽しみながらチャレンジできる内容のプリントを用意しています。
高学年向けのプリントは大人でも即答できないような柔軟な思考が求められるプリント。
難易度の低い問題からチャレンジし、難しい問題も乗り越えていっています。
プリントを1枚終えるごとにシールを1枚はり、どんどん課題にチャレンジする工夫も。
今日はいっぱいできたーと、嬉しそうにシールをはっている子もいました。
フリータイム
走り回れるホールと、勉強部屋、図書室の3部屋を使って自由に遊んだり勉強できます。
ルールは「物は大切に、人を傷つけない」。
ホールでは、トランプ・ボール・フリスビーなどの道具も自由に使えるようにしてあります。
学年関係なく、楽しそうにじゃれ合っている様子を見ていると、こんな時間も大切なんだなと感じます。
たまに「嫌なことされたー」と、大人に助けを求めてくることも。
お行儀よく遊ぶのではなく、色々な友達との関わりも体験し、社会性を育んでもらえればという意図もあります。
レクリエーションの時間
水曜日は大人が用意したレクリエーションに、子ども全員で参加します。
レクリエーションは毎週さまざまな内容。
鬼ごっこ・フルーツバスケットのオーソドックスなものから、チーム対抗つみき積み上げ競争や、なじみのない遊びなども。
レクリエーションはルールを守ることでみんなが楽しめるので、しっかりルールを聞いて理解することが大切。
その上で、まわりの様子を見たり、作戦を考え、チームワークを補ったりと、色々な要素が必要とされます。
そして一番大切にしているのは「大人も子どもも全力で楽しむ」こと。
本気で遊んで、本気で考えます!
高学年が低学年のサポートをしたり、短い時間に作戦を議論したり。
お互いに声をかけあってルールを確認したり、どうやったら勝てるか、意見をだしあったり。
うまくいかなかった時に次はどうすればよいか?と工夫を重ねたりする場面が見られることもあり、大人でも難しいことをなんなくこなす子ども達には驚きです。
学習アドバイザーは子ども達のできることを考慮しながらレクリエーションを考えたり、ルールをアレンジし、レクリエーションを進行します。
様子を見ながら、複雑なルールや、作戦を考えて協力して動くといった、レベルアップしたレクリエーションにもチャレンジすることもあります。
お楽しみ会
月に1回程度、自然体験・食育・クラフトといったテーマでお楽しみ会を企画しています。
この日は、1時間10分まるまる使ってお楽しみ会です。
小菅村中央公民館のキッチンを使ったり、屋外を散策することも。
夏には氷と塩を使ってアイスクリーム作りをしたり、ヤマメの産卵床を見に川に行ったり。
村内の外部講師に頼むこともあります。
過去に放課後こども教室として実施していたお楽しみ会の内容がこちら。
カテゴリ | 過去のお楽しみ会の内容 | 写真 |
自然体験 | 万華鏡で草花あそび 自然のお弁当づくり | |
食育 | アイスクリームづくり デコレーションケーキづくり ポップコーンづくり | |
クラフト | オーナメントづくり 曼荼羅づくり フリスビーづくり | |
その他 | お正月あそび ボッチャ スライムづくり たき火で焼きチョコバナナ |
学習アドバイザー
学習アドバイザーは元学校の先生、塾講師の経験者もいますが、本職は教育関係者ではない村内在住者がスタッフとなっています。
年齢は20~70代と、放課後子ども教室スタッフとしては比較的若めのスタッフ構成です。
全員が教育のプロというわけではありませんが、それぞれの得意分野や特性が違うからこそ、色々な体験の企画や、指導の視点を盛り込んだ内容となっています。
すたすたスクール終了後にはミーティングを開き、こんな場合は子どもにどう対応したら?といったケーススタディをしたり、スムーズに運営できるようにルール作りをしたりします。
今のすたすたスクールのメインスタッフは、2015年の放課後子ども教室から携わっています。
その当時から今のような内容だったわけではなく、子ども達の様子を見たり、試行錯誤をしながら積み上げて流れができていきました。
村のサポートと学習アドバイザーの手腕が、すたすたスクールの要となっています。
さいごに
小さな村で始まった公営塾。
「子どもは村の宝」を実現するため、行政サービスの一環として始まりました。
今後もご期待ください。
青栁やすは
愛知県から小菅村に嫁ぎ、3人の子育てをしています。保育所の体育講師をしながら、小菅村の伝統工芸の「きおび」を使って、作品作りをしています。村に来る前は、環境教育に携わる仕事をしていました。小菅村でのスローライフを研究中。Instagramはこちら