多摩川の源流・小菅川が流れる小菅村。自然豊かな山里に秋の気配が訪れると、きのこ狩りのシーズンの到来だ。源流を定点観測しながら探検する源流探検部としては、ぜひその魅力を体感してみたいもの。しかし、素人にとってきのこの世界はあまりに広くて深い。しかも、きのこに関する噂や情報のほとんどは間違っているという。そこで今回は、小菅村随一のきのこのエキスパートにお願いして、山を案内してもらうことにした。
2017/11/28 ライター:
本記事はDAIWA(グローブライド株式会社)ホームページの記事より転載したものになります。元記事はこちら→http://www.daiwa.com/jp/fishing/be_earth/genryu/content/gen011.html
多摩川の源流・小菅川が流れる小菅村。自然豊かな山里に秋の気配が訪れると、きのこ狩りのシーズンの到来だ。源流を定点観測しながら探検する源流探検部としては、ぜひその魅力を体感してみたいもの。しかし、素人にとってきのこの世界はあまりに広くて深い。しかも、きのこに関する噂や情報のほとんどは間違っているという。そこで今回は、小菅村随一のきのこのエキスパートにお願いして、山を案内してもらうことにした。
今回、源流探検部をガイドしてくださるのは、村内で旅館を営む広瀬晴彦さん。きのこアドバイザーの資格を持つ広瀬さんは、宿泊客を対象に、きのこ狩りツアーや採ってきたきのこの選別指導を行っている。
「現在、雑誌や本に載っているきのこはおよそ2000種です。しかし、実際にはその3倍のきのこがあると言われています。判らないモノの方が多いので、『怪しいものは食べない』が鉄則です。図鑑を見て確認する方法もありますが、同じきのこでも、その写真通りに生えているとは限らないのが難しいところ。例えば、図鑑に載っている写真が成長途中のもので、目の前にあるきのこが成長しきったモノだったら、色や形が異なることもあります。だから、図鑑で判別するのは意外と難しいんです。同じ種類のきのこでも、地域ごとに違いがあったりしますしね」
やはり、きのこ狩りは地元の詳しい人と行くのが安心なのだ。
4月に訪れた源流域の登山道を歩きながら、広瀬さんがさっそくレクチャーをしてくれた。
「小菅村できのこが出始めるのは、8月のお盆過ぎ。川沿いの渓畔林では9月頃から出始め、10月頃に盛りを迎えます。渓畔林にできるきのこのほとんどは、倒木に生えるタイプ。それ以外の場所では、木の根元や地面から生えるタイプが多いですね。こうしたきのこは、地面や地中の動物の死骸から栄養をもらっているんです」
アップダウンの激しい道を、広瀬さんはひょいひょいと歩いていく。必死について行くと、川原に出た。4月にこのポイントを訪れた時に比べて、暗い気がする。それもそのはず、4月には冬枯れだった木々の枝には青々とした葉が、太陽光を遮っていた。4月に9℃だった水温は12.7℃になっている。
「こうして見てみると、小菅川ってゴミが少ないと思いませんか?」
川の流れに見入っていると、広瀬さんが言った。そう言えば、山道でも川沿いでも、人工的なゴミを見た覚えがない。
「僕たちリバーキーパーは、ゴミを見つけたら拾っているんです。でも、小菅川はマナーのいい釣り人が多いですよ。小菅川は昔からヤマメやイワナ、下流ではカジカが釣れるところ。小さな川だからこそ、汚してはいけない、ゴミは持ち帰る、という意識を持っている釣り人が多い気がします」
川を見回りするリバーキーパーは、釣り人に釣りポイントやトイレの情報を教えたりもするという。また、うっかり入漁券を買わずに川に立ち入ってしまった人や、禁漁区や禁漁期を知らずに釣っている人には、丁寧に説明をして、理解を求めているという。このリバーキーパーの活動はボランティアで行っているものだという。川を愛しているからこそできることなのだろう。
川の周囲できのこを探していた広瀬さんが言った。
「もう少し、日の当たる場所に移動しましょう。きのこはジメジメした暗い場所にできるというイメージが強いですよね。でも、すべてのきのこが湿った土地を好むわけではなく、ある程度は日光があった方がいいんです」
再び山を登っていくと、川を見下ろす急斜面に立つ木に広瀬さんが目を留めた。源流探検部のメンバーを安全な場所に残し、崖のような斜面を下りていった広瀬さんは、カサのてっぺんが茶色いきのこを手に戻ってきた。
「栗の木の根元に固まって生えるクリタケです。川を見下ろす斜面なので日当たりがよく、湿度もあるので、生えやすいのでしょう。クリタケの特徴は、カサの中心の色が濃くて外側が薄いこと、縁にささくれがあること、柄はカサに近い方が白く、根に近い方が濃いことなどですね。クセがなく、歯ごたえがあって人気です。鍋に入れると美味しいんですよ」
クリタケは、秋の日差しをスポットライトのように浴びて、艶やかに輝いていた。
自生するきのこに感動する探検部メンバーを、広瀬さんは別のスポットに案内してくれた。太陽光が優しく注ぐ渓畔林で、広瀬さんが斜面を指差した。
「あの栗の木に白い塊があるのが見えますか? ヤマブシタケです」
言われて初めて、白い塊に気づく源流探検部。さっそく広瀬さんが採ってきてくれたヤマブシタケは、白い毛糸の塊のよう。触るとふわふわしている。
「ヤマブシタケは、軽く湯がいてからワサビ醤油で食べると美味しいですよ。虫が入っていなければ生で食べるという人もいますね。ヤマブシタケに限らず、自生するきのこを採ったら、天日干しや沸かした塩水などで必ず虫抜きをする必要があります」
渓畔林を抜けると、広い川原に出た。川幅が広いせいか、日当たりがいい。苔むした倒木に白い花びらみたいなきのこが固まって生えているのを見つけた。
「ブナハリタケです。カサの裏が針状になっていること、甘い匂いが特徴です。匂いが強いので、鍋に入れるより、炒めた方が美味しいですね。倒木にびっしり生え、時には森の一画が真っ白になることもあるんですよ」
「ご自分たちで採ってみませんか?」と勧められ、軍手をはめて根元からそっと引っ張ると、思ったよりラクに木から剥がれた。
ナラなど広葉樹の切り株にできるナラタケや、鶏肉のような風味のマスタケなど、次々と見つけては教えてくれる広瀬さん。まさにきのこ名人だが、子供の頃はあまり興味がなかったという。
「きのこに興味を持ったきっかけは、大人になってから親戚にきのこ狩りに連れて行ってもらったこと。その時、小さめのきのこを採ろうとして、止められたんですよ。『一週間待てば美味しく食べられるから、まだ採るな。もう一度採りに来た時になくなっていても、誰かが美味しく食べたと思えば、それでいいじゃないか』って。そういう考え方があるんだなと感心しました」
山の恵みを頂く意味を知っている人の言葉は、広瀬さんに大きな影響を与えたようだ。そんな広瀬さんは今、きのこアドバイザーに加えて、山菜アドバイザーの資格も持っている。
「遠くからいらした方の中には、タラの芽を枝ごと折ったり、まだ赤ちゃんのようなきのこまで採ってしまったりと、残念な方も見受けられます。『ここには二度と来られないかも』と思うと、見つけたものは何でも採りたくなってしまうのかもしれません。多くの方が次の年も楽しめるよう、きのこ狩りも山菜採りも、是非ゆとりのある心で楽しんでもらえたら嬉しいですね」
山を下りると、広瀬さんが経営する廣瀬屋旅館に向かった。お目当ては、ランチメニューの天ぷら定食。この時期は、広瀬さんが自ら山で採って来たきのこが食べられるのだ。
ご飯や小鉢と一緒に登場したのは、天ぷらの盛り合わせときのこ汁。
まずは一緒に山で採ったクリタケとナラタケが入ったきのこ汁を一口。つるんとした舌触りで美味しい。次は、カラッと揚がった天ぷらの器には、ヤマメなどと一緒に3種類のキノコの天ぷらが美味そうに盛られている。黒いきのこは馴染みのあるマイタケ。オレンジ色のマスタケは、噂通りの鶏肉のような食感と風味。先ほど山で採ったブナハリタケは、フワフワで美味しい。
季節によって様々な自然の恩恵を満喫できるのも、ココに立ち入る皆さんがマナーをわきまえ、限られた山や源流の資源を守っているからこそのこと。自然の恵みを次代に残すためにも、我々もまた、その自然に労わりの気持ちをもって接しなければいけない、と改めて思った。
<目次>
<元記事>
多摩川源流のキノコを探しに|DAIWA BE EARTH FRIENDLY -Web site