地域おこし協力隊OB・OGに聞くvol.1 「年齢は関係ない」タイニーハウス仕掛人が語る村との協働
2023/05/30 ライター:小竹隼人
2009年に開始された「地域おこし協力隊」。
人口減少や高齢化が進む地域の活力を維持・強化するために総務省が設立した制度です。
協力隊員は年々増えており、2022年度は全国で約6500人が活動しました。
地方自治体への定住・定着を図る制度として政府も後押ししており、新しい就職の形とも言えます。
小菅村では2011年に制度が開設。
2023年度は8名の隊員が村内各所で活動しています。
この記事でフィーチャーするのは小菅村での協力隊活動を経て、現在、村に残り活躍しているOB・OGたちです。
初回は2019年に卒業した和田隆男さん(75歳)。
わずか4~6坪の土地に一軒家を小菅村に次々と建てる「タイニーハウスプロジェクト」の仕掛人です。
しかし、和田さんは協力隊員として赴任した当初、建築や建設を手がけるとは全く考えていなかったといいます。
3年の任期中に何を心がけたのか、それが現在にどう繋がっているかを聞きました。
70歳目前で協力隊員になった理由とは
──地域おこし協力隊員として小菅村に来たいきさつを教えてください。
和田隆男さん:指物師(板材をさし合わせ家具などを組み立てる職人)をしていた父親の影響もあり小さい頃からものづくりが好きでした。
工業高校で建築を学んだ後、建築事務所に就職し建築士として仕事をしていました。
45歳を過ぎた頃、縁あって道の駅こすげに現存する「小菅の湯」設計に携わりました。
以降、折に触れて公共施設の設計などで小菅村と仕事をする機会がありました。
小菅村は外から来た人に温かく接してくれる風土があります。
私自身も村民の家に招かれて食事をご馳走になるなど手厚くもてなしていただきました。
そういった体験があったので、「いつか小菅村のために恩返しがしたい」と思うようになりました。
68歳で会社を退職後、仕事を通じ30年来の付き合いがあった舩木直美村長に「何かお手伝いできることはありませんか」と声を掛けました。その時にご紹介いただいたのが「地域おこし協力隊」です。
私としては小菅村のためであればどんな形態でも構いませんでしたが、年齢のことが少し気になりました。
協力隊制度を管轄する総務省に問い合わせ懸念を伝えたところ、
「年齢は関係ない。これまで培ってきた人脈やキャリアをどう使うかが大事です」と言ってもらえたので、小菅村に応募し採用してもらいまいした。
”方針転換”を経てタイニーハウスに着手
──和田さんは現在小菅村内の建築関係のお仕事をされています。
一級建築士としての経験を活かすために協力隊員になったのですか?
実は、当初は別のことを考えていました。
若い頃、建築以外の勉強はしてこなかったので、20代半ばで見聞を広めるために思い切って会社を辞めました。
それで2年間イギリスやヨーロッパに滞在しました。
イギリスではイングリッシュガーデンに出会い、その美しさに圧倒されるとともに、日常の癒しとなっていました。
それが忘れられず60代半ばでイギリスを再訪しました。
イングリッシュガーデンは変わらず魅力的で日本にもこういった要素を取り入れられたらと思ったのです。
質問に答えると、協力隊員として小菅村に来た時は「イングリッシュガーデンをつくりたい」と考えていました(笑)
──現在の取り組みとは全く違う構想をお持ちだったのですね!
タイニーハウスに着手するきっかけを教えてください。
小菅村に来てから気付かされたのですが、どの自治体にも「総合計画」という行政運営の指針があって、村のあらゆる事業や施策は基本的にその計画に沿って進められます。
イングリッシュガーデンは残念ながら当時の村の方向性の中に位置づけるのは難しかったのです。
そういった状況で方向転換が必要だった時に、村では移住希望者向けの住宅が足りていないことを知りました。
住宅不足の理由は2つです。
1 空き家はたくさんあるものの個人所有な上にリフォームが必要で利用へのハードルがある
2 新たに建設するとなると一戸あたり2000万円ほどかかる
私が村に移住した当初も村営住宅がなかったため、使われていない宿泊施設の部屋に住むことになり住宅不足問題は目の当たりにしていました。
タイニーハウスの建設を思いついたのはその時でした。
タイニーハウスとは タイニーハウスとは文字通り「小さな家」。 省エネ・省資材の家でありながら快適な暮らしを実現できる空間として注目を集めています。
▼小菅村タイニーハウスプロジェクトHP |
タイニーハウスの建設自体は初めてでしたが、幸いにも設計図は以前書いたことがありました。
2回目に渡英した時のことです。
イギリスではロンドンを中心に土地不足の状況で、イギリス人の知り合いからわずか6坪ほどの土地に「家を設計できないか」と相談されました。
あまりにも狭く難しいかと思ったのですが、「日本の1ルームマンション」の発想で案外上手く設計図を書けたのです。
小菅村に来た頃はアメリカでも狭い家に住むのがブームだったのでやってみる価値があると考えました。
スキルを活かして村の課題解決へ
「タイニーハウスで村の課題解決をしましょう!」
村長はじめ村役場の方に提案したところ、「狭すぎるのでは?」や「需要があるのか?」といった疑問が出ました。
しかし設計図やイメージ画像をお見せしながら、最低限の面積ながらリビングやキッチンが完備されていること、それら3歩でアクセスできる便利さがあること、ロフト付きなので吹き抜け部分の天井が高く開放感ある空間であること等を説明したら納得してもらえました。
タイニーハウスは暮らしの面で豊かさを提供してくれるのみならず、住宅建設という側面でも非常に優秀でした。
まずは1棟500~700万で建築可能で低コスト。
そして工期も2~3か月と短い。
さらに小菅村の木材を使うことで、地元の林業活性化に繋がることも重要でした。
──プロジェクトが進んでいく上で困難だったことはありますか?
それがほとんどなかったのです。
私にとって幸運だったのは、協力隊在籍時の仕事場が村役場の一角にあったことです。
プロジェクトを進める上で、ささいなことでも村長や担当課に相談できました。
役場にいることが多かったので、村の動きが何となく読めたということもあります(笑)
──協力隊在籍時、タイニーハウスに関する事業以外はどんな取り組みをしましたか?
小菅村中央公民館の改修や診療所の設計など、建築に関わることをしました。
プライベートでは単身で小菅村に来ており、週末は家族が住む甲府に帰る生活をずっと続けています。
小菅村で過ごす時間をもっと持てたら色々な楽しみを見つけられたのかもしれません。
任期後を見据えて
──任期後を見据えて準備したことはありますか?
「道の駅こすげ」内のレストランや温泉を運営する村100%出資の「株式会社源」という組織があります。
任期3年目にはその会社内に「源設計事務所」という部門を置き、そこで建築関係の仕事を請け負うようになりました。
任期終了後には今の「つくる座」という自分の会社を設立させてもらいました。
つくる座とは 設計以外にも「ものづくりを通じて豊かな暮らしを提案する」ことを目指し、主に小菅村の木材を活用して家具や小物などの製作を手がけています。
▼つくる座についてはこちらの記事でも紹介しています。 初心者でも本格的な木工DIYができるvol.1 「小菅つくる座」木工工房ってどんなところ? |
──「つくる座」設立から4年経ちますが、会社としては順調に推移していますか?
村からは引き続き仕事をもらっていますが、それだけだと先行きが読めないので、村の外からの仕事も増やしていく努力をしています。
経営や営業の経験はこれまであまり縁がなかったので試行錯誤が続いています(笑)
──一般論ですが、任期後、思うように仕事を継続できず自治体を出ていく協力隊員もいるようです。
協力隊員時代にどんなことを心がけたらよいと思いますか?
「自分はこれをやりたい」という想いを持ち続けることが大切です。
協力隊として来る以上は自治体のために働くのですが、その中でも「自分の核」を見失わないことですね。
自分のやりたい事があって、それと村の方向性が同じであれば自治体のためにもなりますし、事業が継続していく可能性が高いと思います。
──自身のやりたいことを自治体の方向性とすりあわせることが大事なのですね。
そう思います。
そのためには、できるだけ役所とコミュニケーションを取ることです。
「この人はこういうことがやりたいのか」と役所に知ってもらうか否かでは全然違いますから。
村長や担当者に「時間をください」とお願いして断られることはないでしょう(笑)
──それ以外に、協力隊員が何か事業を進める上でコツはありますか?
私の場合は役所に動いてもらうことでタイニーハウスプロジェクトを実現できました。
ですが、やりたい内容によって「外から資本を誘致する」とか「スポンサーを見つける」等々のやり方はあると思います。
「何が正しいか」で物事を動かそうとすると選択肢が狭まります。
「どんな方法があるか」という視点をもつと色々と見えてくると思います。
さいごに
「君はこの村で何がやりたいんだ」
和田さんはこのインタビュー終了後、コーヒーをすすりながら少し心配そうに、4月から小菅村の協力隊員となった私に問いかけました。
「前職の業務である記事の執筆を通して小菅村の魅力を発信していくこと、それから、宅地建物取引士の資格を取得し空き家問題に取り組んでいくことです」。
和田さんは「空き家問題は深刻だから頑張れ」との激励とともに、古民家の建築や骨組みを残し活かしながら現在の住人の価値観を吹き込む「手造りのリフォーム」の構想を熱く語って下さいました。
いつか和田さんとお仕事をご一緒するという夢を持てたと同時に、3年間という限られた協力隊の期間で、自分のやりたいことを見失わずに、スキルを磨き、人脈を広げていく必要があるなと、身の引き締まる思いがしました。
▼Vol.2はこちら
地域おこし協力隊OB・OGに聞くvol.2 「地域に溶け込むためには歩いてなんぼ」その心とは?
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小竹隼人
2023年春、自然を求めて東京から小菅村に移住。地域おこし協力隊員です。
農業と狩猟をやりたい!