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山梨県小菅村に東京都の土地がある?どういうことなのか聞いてみた

2019/10/23 ライター:田中いつき


小菅村に東京都の土地があるっていう話を聞きました。

山梨県に所属しているはずの小菅村に東京都の土地があるってどういうこと??と思いませんか?

 

謎を解くため、その土地を管轄しているという東京都水道局水源管理事務所技術課課長代理の木村高士さんと同・村木瑞穂さんにお話を伺いました。

 

 

水道局が管理する土地?

 

 

―水道局のお仕事というと、水道管の管理と料金徴収というイメージなのですが、土地の管理というはどういうことでしょうか?

 

木村さん 「水道局というと浄水場で水道水をつくったり各家庭に給水をしたりというイメージがありますが、実際には東京都水道局の仕事は多岐に渡ります。

水道管そのものの管理はもちろん、河川から取水するために川の堰の管理や、水を貯めるダムの管理、東京都水道歴史館など水道事業の広報施設の運営も仕事の一部です。

また、史跡である玉川上水の整備保全も東京都水道局の仕事です。


写真提供/東京都水道局


その一環にあるのが水道水源林の保全です。

水源となる上流域の森林の管理をしています。

水源の範囲と都県の境界は一致しないので、隣の山梨県にある森林を購入し、管理しています。

水道水源林全体だと約24,000ha、東京都の全面積のおよそ1/10にあたるほどの広大な面積になっています。

小菅村にある分は1,791haで、東京都水道水源林の7%にあたる部分になります」

 

小菅村の面積は5,278haなので、全体の34%にあたる部分が東京都水道水源林!

小菅村と密接に関わっていたのでした。

 

 

100年を超える歴史

 

―水道局の仕事はずいぶんと幅広い分野をカバーしているんですね。

そういう経緯で山梨県小菅村に「都有地」があるということなんですね。

これはいつ頃から持っているものなんでしょうか?

木村さん 「明治34年までさかのぼります」

 

―ずいぶん古くからなんですね。

木村さん 「当時、江戸幕府から明治政府へと体制が変わったことで、水源地が大変荒廃しました。

それを東京府が問題に思って、山梨県下の小菅村、丹波山村および日原(にっぱら)川の御用林を譲り受け、自ら経営を開始したのが始まりです」


大正時代の笠取山(丹波山村)付近。高木がほぼ無い。 写真提供/東京都水道局


―御料林とは?

木村さん 「御料林は明治時代以降、皇室が所有していた森林のことで、江戸時代は『お止め山』と呼ばれていました。

当時、木は重要な資源だったので、勝手に木を伐ることができないように江戸幕府が直轄で厳しく管理していたんですね。

なので、山の木がきちんと守られていて、健全な状態になっていました。

水源地として保護していた他に、将軍が鷹狩りに来たりもしていたんですよ。

 

ですが、明治時代、御料林と呼ばれるようになってから、山が荒れ始めたんです。

管理の仕方が変り、乱伐、開墾、焼畑などが繰り返し行われ、「はげ山」同然となってしまいました。

何をするにも木が必要な時代だったので、勝手に木がどんどん伐られてしまうんですね。

 

―それが「荒廃した」ということですか?

木村さん 「そうです。木がない山(森林)になってしまうと傾斜のきつい、急峻な地形である多摩川の源流エリアは、雨が降るたびに土が流出してしまって、洪水だったり、水質汚濁だったりという問題が発生してしまったのです。

安定的に良質な水を提供できなくなっておりました。」


現在の笠取山。高木に覆われている。 写真提供/東京都水道局


―そこで、明治34年に東京府が多摩川の上流域を購入したということですか。

木村さん 「はい。購入しました。現在は利根川・荒川からも取水していて、多摩川からの取水は全体の2割程度なのですが、昭和30年代までは大部分を多摩川から取水していました。

小河内(おごうち)ダムができたのも昭和32年のことなんですね。

 

現在とは水事情が全く違ったので適切な水道水源林の維持が大事なことでした。

当初は水を貯めるために木を植えて適切な管理をしつつ、木材の販売もしていました。

それを『経営』と呼びます。

一般的な林業経営は木材販売を優先させますが、水道水源林では水源をかん養することが優先されます」

 

―水源も管理しつつ、そこから収益が出たんですか?

木村さん 「そうですね。昭和30年代頃までは、建築材として木材が高値で売れる時代だったので、収益が出ていました。

なので、販売する木材用に森林を管理していました。

その名残がスギやヒノキなどの針葉樹を中心とした森林なんです」

 

 

時代が変わると、管理も変わる


写真提供/東京都水道局


―今は違う管理の仕方をされているということでしょうか?

村木さん 「今は木材が高値で売れる時代ではないので、水源かん養のための管理に変わっています。

具体的には森林の中を明るくするために、木を間引いたり、木の下の方の枝を落としたりしています。

こうすることで、森林の下層まで太陽光が当たるようになり、植物の種類や数が増えます。

苗木を植えなくても地面に蓄えられていた種子が勝手に生えてきてくれるんですよ。

そうすると土壌の流出が防げ、水源かん養、水質の向上、生物多様性に繋がっていきます。

 

また複層林といって複数の世代にわたる木を育てたり、天然林へと移行するように誘導する作業を行っています。

このあたりは一般の林業とは大きく違うところではないでしょうか。

とはいっても、ニホンジカが下層の植物を食べてしまって、森がまた裸になりかねない問題がおきています。

これは小菅村でも対策をしていますよね」

 

―小菅村でのシカを含めた畑の獣害対策については、以前、記事を書いています。

小菅のこれ、なあに? 村に張り巡らされた柵は何のため?

 

村木さん 「東京都でも新たに植えたエリアにはシカ除けの柵をしたり、木の皮をかじられないようにネットをまいたり、捕獲の支援をしたりするなどして対策をしています」

 

―なるほど。ニホンジカの問題は小菅村だけのことではなく、都民にも関わってくる問題だったんですね。

 

最後に読者にメッセージをどうぞ。

村木さん 「小菅村の源流祭りなど近隣のお祭りでも、東京都水道局としてブースを出していて、水道水源林のPR活動をしています。

見かけた際にはお声がけしてくださいね」


写真提供/東京都水道局


一見、無関係に思えたけれど、都民の生活に密着していた小菅村の水道水源林。

次に水を使うときには蛇口の向こうの水源の森に思いを馳せてみてくださいね。


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田中いつき

小菅村に通い始めて15年のライター。東京在住。コーヒーとチョコとアイスとパンがあれば生きていける。 趣味は散歩と昼寝。生き物、農業、林業の話題が好き。普段は料理、コスメ、雑貨の記事を書いている。

Twitter https://twitter.com/atree_s

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