小菅村でよく見かける例の看板の真相を聞いてみた
2019/10/24 ライター:田中いつき
小菅村でよく見かけるこの看板。
「一体なんだろう?」と思われている方も多いのではないでしょうか?
そこでこの看板を立てたという多摩川水源森林隊隊長の木村高士・東京都水道局水源林事務所技術課課長代理にお話を伺いました。
たくさんある看板の謎
―これは一体何の看板なんでしょうか?
「これは多摩川水源森林隊という、東京都水道局が組織する森林ボランティア団体が整備した森林に立てている看板になります」
―水道局が森林ボランティアを組織しているのですか?
「そうなんです。東京都水道局では水源のかん養のために、水道水源林として約24,000haの森林を所有管理しています。
ですが多摩川流域には、それ以外の民有林という個人や企業が所有する森林が同じくらいの広さで広がっています。
なので、水道水源林だけを管理するのではなく、民有林も手入れをしていかないと本当の水源の管理にはならないという考え方をしています。
そのために2つの施策を行っています。
1つは民有林の購入です。
もう1つは多摩川水源森林隊を設立し、ボランティアさんの力を借りて森の手入れを行っていくものですが、実は水源林のPRがメインの目的です」
森林ボランティアとは?
―ボランティアに入ることがPRになるのでしょうか?
「都市部に住んでいる方々が実際に体を動かして森林保全活動に参加することで、良質な水を安定的に確保するためには良好な森づくりが欠かせないということを理解していただいております」
―実際に作業をするボランティアということですよね?
林業のプロではなく素人さんが森林の整備をしているということでしょうか?
「参加者の方は森林作業未経験の方々がほとんどです。
その方々に、プロである東京都森林組合が指導をしていく形にしています。
プロが安全面をしっかり担保して、指導していくので正しいやり方で森林整備を行うことができるんです。
仕事ではないですし、多摩川源流域はとても急峻な地形なので丁寧な作業を心がけています。
事故を起こさないで活動するのが一番大事ですから。
量より質を重視しています」
―どんな方が参加されているんでしょうか?
「16歳以上の健康で山を歩くことができる方なら、どなたでもご参加いただけます。
東京以外の千葉、埼玉など近県から来られている方もいらっしゃいます。
老若男女、様々な方に参加していただいていますが、割合としては男性の60~70代の方が多くなっています。
現在約1,300人が登録しています」
内閣総理大臣賞受賞!
―どのくらい活動をされているのでしょうか?
「毎年150回程度の活動をしています。
これは森林ボランティア、林業体験の回数としては非常に多くなっています。
量より質を心がけていると言いましたが、15年以上続いているので、面積が増えてきまして、実際に整備したエリアも広がり、令和元年現在で290haの民有林を整備したことになります。
そのかいあって、昨年度『平成30年度緑化推進運動功労者 内閣総理大臣賞』を受賞することができました。
これは緑化活動の推進、緑化思想の普及啓発に功績があった場合に表彰されるもので、設立から今日までボランティアさんと一緒に活動してきたことが評価されて、とても嬉しく思っております」
―具体的にはどんな活動をしてらっしゃいますか?
「森の地面に太陽光が届くように木を伐ったり、枝を払ったりする作業をしています。
というのは光が届くようになると、地面に眠っている種子たちが目覚めて、下層の植生が豊かになるんです。
それが水源のかん養につながるので。
参加者の方々には斧や鋸で木を伐り倒し、木の幹に登って枝打をする作業を、自力でできるように指導していきます。
その方のペースに合わせて指導していくので、初心者でも大丈夫ですよ」
―参加者の反応はいかがですか?
「初めて伐り倒した方は、やはり感動したとおっしゃることが多いですね。
そんなことが自分にできるとは思っていないことが多いので。
枝打をされた方はさっぱりした木を見て、達成感を得ることが多いみたいです」
―どうしたら参加できますか?
「水道局のwebサイトにて登録したのちに、参加したい回に申し込むスタイルを取っています。
活動日は木曜日と土曜日・日曜日・月末の水曜日です。
意外に木曜日の参加者が多いんですよ」
「多摩川水源森林隊」森林保全のボランティア についてはこちら
―何か特別な準備が必要だったりしますか?
「昼食や飲み物、作業しやすい服装など山へ行く基本的な装備だけです。
安全のためのヘルメットやスパイク付き地下足袋は貸し出しているので、購入する必要はありませんよ」
民有林で作業するということ
―なるほど、参加するためのハードルはとても低いんですね。
ところで、活動する場所はどうやって探しているのでしょうか?
「水道局の職員から作業させてほしいと、地権者の方にお願いに行きます。
私は5代目の隊長なのですが、活動当初は『うちの山を素人に任せることなんてできない』と言われることが多かったようです。
丁寧な活動を重ねて、今では『多摩川水源森林隊なら』と、任せてもらえることが多くなりました。
林内がとても綺麗になるので、それを喜んでくださる地権者の方が多いです。
特に小菅村では作業した森林の地権者の方が、他の地権者の方に紹介してくれることが多くて、助かっています。
また村長さんもPRしてくれているのも大きいです。
とてもありがたく思っています。
そして、作業させていただいた場所が道路に近かった場合などに『多摩川水源森林隊』の看板を立てさせていただいています。
これもPRの1つですね」
―一方で指導者の東京都森林組合の方々はボランティアではないですよね?
「水道局から東京都森林組合へ、水源森林隊の指導という形で委託をしています。
4人の方に1年を通して森林隊専属の仕事をしていただいています。
活動日以外にも、活動場所の確認や作業しやすくするための作業を行っているんですよ。
参加者の方に安全に作業をしていただくための裏方作業です」
―ボランティアを組織する上で課題などはありますか?
「やはり年齢層が偏っているので、若い方の参加者を増やしたいと考えています。
そのために、都立高校や大学と連携した活動を始めました。
高校生や大学生はすぐに卒業していってしまうという考えもありますが、逆に考えると、毎年新しい1年生が来てくれるんです。
そのPRの効果は高いと考えています。
また、中には卒業してからも関わってくれるような学生さんも現れているので、とてもありがたいです。
先日も東京農業大学で座学の講座を行ってきたんですが、すぐに登録してくれた学生さんがいました。
少しずつでも、そうした方が増えていったらいいと思います」
「もう一つの課題としては、地権者の高齢化や相続により境界がわからないということが多くなってきています。
これは全国的な問題でもあり、改善していかなければならないと考えています」
というわけで、小菅村でよく見かける看板は多摩川水源森林隊が作業した美しい森に掲げられる看板だったのでした。
蛇口から出てくる1滴を作るために、大勢の人たちが努力していたのですね。
今度、小菅村を訪問した時には、どんな森になっているのかチェックしてみてくださいね。
田中いつき
小菅村に通い始めて15年のライター。東京在住。コーヒーとチョコとアイスとパンがあれば生きていける。 趣味は散歩と昼寝。生き物、農業、林業の話題が好き。普段は料理、コスメ、雑貨の記事を書いている。
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